彼女―――雅サン。はこっちの世界に執着してる。
まぁ確かに、こっちの世界はなんでも叶うし?なんでも手に入るし?
現実世界に苛々してる人にしてみりゃ最高の世界なんだろうね。
けど、
やっぱり、駄目だ。このままじゃ、雅サンが危ない…。
もう二度と……二度とあの子と同じ目に遭う人を作っちゃいけない、んだ……!
近くて遠い過去の話+++side 鈴丸
「夢前兄ちゃん!」
僕の近くて遠い過去の中で、その子―――光、ヒカル。は僕のことをそう呼んだ。
彼は当時小学4年生。僕はここの管理人になったばかり。
光は小さくて、おっちょこちょいで、どがつくくらい負けず嫌いで、それでいて笑うときは向日葵みたいにパッと笑って、弟みたいで可愛くて。
僕は光が大好きだった。
光も僕に懐いてくれていて、毎晩毎晩僕のもとにやってきては一緒に沢山沢山遊んだ。
かくれんぼ、鬼ごっこ、木登り、宝探し…どこにでもあるような遊びでも、遊園地みたいで楽しかった。
管理人になりたてとは言え、僕だってちゃあんと知ってた。
『この世界に執着しちゃいけない』ことくらい。
勿論光にもそれはきちんと言った。何度もね。
でも、やっぱりこの空間が陽だまりみたいに居心地よくて、安心できる家みたいで、お互いに本当の兄弟みたいで。
執着しないではいられなかった。
僕も光も。
「夢前兄ちゃん夢前兄ちゃん!」
「ん〜?どした、光」
「さっきね、あっちでキレーな貝殻みっけたの!ホラ!」
場所は綺麗な海辺。さらさらとした砂浜、太陽の光りに白く反射する波。
そしてキラキラ、キラキラ。
彼の手の中には、輝く巻貝がひとつ。
「へぇーキレイ。すごいね光!」
「えっへへ!兄ちゃんも一緒に探そうよ!」
裸足になって、あっちこっち走り回って、転げまわって、笑って笑ってキラキラ、キラキラ。
太陽だって、空だって、雲だって、風だって、僕らを囲んで笑ってた。
ずっとずっと続けばいいのに、ずっとずっと夜ならいいのに。そういつも思ってた。
けど、
夢は夢。現実は現実。掟は掟。
守るべきものは守らないと、罰はあとからやってくる。
僕らへの罰は、ある日突然やってきた―――――。
************************************* ** * *
その日、深夜になっても光は僕のもとへと来なかった。
どうしたんだろうと心配になったけど、これが当たり前なのかとも思っていた。
そのときだった。
…ゴ……ゴゴゴゴゴゴゴ……
突然あたりに地響きのような音が響いたんだ。
「み、みなさん落ち着いて…!」
幸い、その日はこっちの世界にきてる人は少なくて、その人たちもすぐに避難させた。
僕は音の発生源を探してきょろきょろと辺りを見渡してみた。
そして、ふと上を見上げたときに目に入ったもの。それは、
「な、ん、なんだこれ…!?」
亀裂。
北極とか、氷だらけのとこにありそうな、おっきなおっきな亀裂が上空に広がっていたんだ。
そしてその先に見えるこの世界とは異質のでこぼこしたモノ。
「わ、わわ…!」
ばらばらとその異質のモノはこちらへ降ってきては途中でひび割れ、粉々に消えた。
それらはよく見ればくまのぬいぐるみだとか、プラモデルとか、そういった「おもちゃ」だった。
「!?」
そして、その中でも一際大きな音をたてて落ちてきたもの。
「ひ、光!?!?」
「にいちゃぁ…!!!」
光は、ちょうど眠りにつくころだったらしく、手にしっかりと毛布を握り締め、背中をこちらに向けたような状態で落ちてきた。
勿論僕は、慌てて光が落ちていく落下点へと走っていった。
でも、落ちてくる光から離れているところにいても、光がみるみるうちに硬直していくのがわかったんだ。
( 光 ガ 壊 レ ル … … ! ? )
僕は必死で叫んだ。
「光!!光!!!」
「に……ちゃ、たス、ケ……!」
「待って…!助ける、助けるから!壊れないで光…!!」
「…ケ……テ!」
「待って、待って光!お願いだから!光!!」
落下点だと思われる地点に滑り込み、上を見上げれば、ボロボロと光の破片(とは信じたくなかった僕は、その時その破片は別のおもちゃだと思った)が降ってきては消えていくのが見えた。
「 ひ か る ? 」
「…タ……ケ………テ、ニィ…‥」
パン
運動会でのスタートの号砲かのような音がしたかと思えば、光は、その形を失っていた。
さらさら、さらさら、僕の周りをあの海辺の砂のような破片が飛んでいっては、消えた。
「 ひ か る ? 」
再度呼びかけたその声は、どこにも届かず、ただ宙を彷徨っていた。
光が壊れた。壊してしまった。消してしまった。この世界からも、あの世界からも。
『この世界に執着しちゃいけない』
その意味を目の当たりにした瞬間だった。
光が壊れた。壊してしまった。消してしまった。この世界からも、あの世界からも。
大事だった、大好きだった、あの小さな小さな子供を、
僕ハ消シテシマッタ。
「うあぁあぁあぁあああっぁああぁあああ!!!!」
涙はとめどなく溢れた。悲しくて、悲しくて、辛くて、苦しくて、どうしようもないことに今更気付いて。
愚かな僕。きちんと掟を守っていれば、もしかしたら今も光は…。
「夢前!!」
雅サンがこの世界に執着してるのなら、僕は早くそれをとめなければ。
じゃないと、また、あの光のように…
それだけは、なんとしても避けないと…!もう二度と、繰り返してなるもんか。
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