『大丈夫、きっと2人とも助けるから』
その言葉と共に、壁越しに感じていた夢前君の気配が消えた。
「…………あ」
膝に込めていた力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまった。
身体がカタカタと震え出す。
だけど、こうしてばかりじゃ駄目なんだ―――!
覚悟++side 斑咲
気が付いたら、此処にいた。
真っ白で何も無い世界。ひとつだけ確かなのは、眼前に壁があることだけ。
正直、酷く不安だった。
夢前君のトコロは真っ暗だったけど暖かい空気が満ちていた。此処は、冷たい。
背筋が凍る。
「夢前君……」
さむいよ。
「夢前君………」
こわいよ。
「夢前君…………ッッ!」
さみしいよ!
『…やびさん!雅サーン!!』
そのとき、壁の向こうから夢前君の声がした。
来て、くれたんだ。
「何ー!?夢前君!!」
壁越しの大声での会話。ムードもへったくれもあったモンじゃない。
だけど、私の不安は少しだけ和らいだ気がした。
少しだけ話して、少しだけ私を勇気付けると、夢前君は私にこのまま待つように言った。
「……ねぇー」
きっと私を助けようとしてくれているんだろうけど、やっぱりもう少しだけ此処にいてほしくて、私は咄嗟に彼を呼び止めた。
「私………どうなるの?」
『どうなるって…』
彼が困惑しているのは分かった。だけど、問い掛けは次々と口から溢れてくる。
「私………光君みたいに、なるの?」
それは、ずっとずっと気にかかっていたこと。
光君が楽しそうに話してくれた、『ユメサキ兄ちゃん』の話。
私だって、気付いてなかった訳じゃ、なかった。
只、信じたくなかっただけ。私も現に戻れなくなるかもしれないって。
だけど、その所為でまた、私は優を、夢前君を……。
ごめん、ごめんね、優。私、優のこと全然分かってなかったよ。
ごめんなさい、夢前君。君はずっと私の事を心配してくれてたのに。
でも、幾ら謝ったとしても、何も取り返すことは出来ない。
だからお願い。図々しいけど、きっと光君を助けられるのは夢前君だから。
優を、光君を頼んだよ。
『大丈夫、きっと2人とも助けるから』
そう言い残して、夢前君の足音は遠ざかっていった。
瞬間、どうしようもない恐怖に襲われる。
もう一度、声を上げて呼んでみようか。そしたらきっと夢前君は此処に戻ってきてくれる。
と、そんな事を考えている自分に、身体の底から怒りが込み上げてきた。
私はこんな時まで自分勝手だ。
悪いのは私なのに、それなのに何も出来ない。しようとしない。
私がしたことといったら、皆を困らせて、結局最後には夢前君に押し付けただけ。
自分の浅はかさに腹が立って涙が出そうになった。
さっきだって、夢前君を困らせて、その上助けてほしいだなんて。
そんなの、只の我儘で、いたく傲慢なだけじゃないか。
駄目だ。
こんなところでへたり込んでちゃ駄目なんだ。
哂い続ける膝を叱咤して、壁伝いに歩き出す。
真っ白で何も見えないけれど、それでも行かなくちゃ。
夢前君は、私の為に、光君の為に、あの真っ黒な世界を走ってる。
優だって、きっと現の世界で必死に耐えている。もしかしたら何か行動に出てるかもしれない。
それなのに、私だけ座って震えてるなんて出来ないよ。
私も行かなくちゃ。
壊したモノは、自分で直すんだ。
真っ白な世界の足場をしっかりと踏み締めて、取り敢えず後ろ向きに駆け出した。
『動いちゃ駄目だからね』っていう夢前君の言葉は、取り敢えず完全無視って事で。
夢前君のことだ、仮令助かっても私が勝手に動いたと知ったらまた怒り出すんだろうけど。
さあ行け雅。私に囚われのお姫様なんて似合わない。
また皆が笑えるように、息が切れても走り続けよう。
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