序章+++side 鈴丸





やぁようこそそこの君!

太陽も月も星も街の明かりもなーんもないとこで吃驚してるかな?

まぁそんなに緊張しないで気楽にいてくれよ!


なんせここは君の「夢」なんだからサ!


あ、そうそう。

僕はここの管理人みたいなことやっている、夢前と申します★よろしくね。

まぁ管理人っていっても、こうして来る人出迎えて、去って行く人を送ってるくらいなんだけど。

こんな昼も夜もあんのかよ、てとこでつまんない管理人なんて、正直やってらんないよねー。

お天道様が恋しいよ。

そだ。君一回やってみない?なんて。


……え?それよりここはどこかって?

おいおい、人の話はちゃんと訊いてろって。授業とかちゃんと受けてる?

さっきも言ったっしょ?

ここは君の「夢」だよって。

そんでもって、ここがこんなにも真っ暗なのは、君がまだなんの望んでいないからなんだよ。


そう。ここはね、君の望みがなんでも叶う世界なんだ。

モノも、金も、友達も、恋人も、名声も、地位も、なんでも手に入る。

大地も、天気も、時間も、政治も、なんでも動かせる。

そういう世界なんだ、ここは。

目を閉じただけであらゆることが可能になるなんて、素敵でしょ?



例えば、ホラ。あの人とか。

あの人はね、誠実な人柄だし、誰に対してもすっごく優しいし時に厳しいし、人間のあったかさ?そういうのをきちんと持ってる人なんだ。

でもね、神様とやらの悪戯か、はたまた彼に与えられた試練か、彼には家族がなかった。

決して初めから無かったわけではないんだけど、全部失ったんだ。

親も、兄弟も、祖父母も、親戚も、妻も、子供も、彼の愛する人たち、全部。

あの人は家族を失ったその日からずっとずっと孤独だった。

だから彼は、平穏で心から安らげる家族が欲しかった。2度と失うことがないような、家族を。

んで、ある日彼はここへ来た。

その後は見たとおり。彼は優しくて思いやりのある妻と、沢山の可愛い子供たちを持つことが出来た。

この世界でね。

あの人の顔を見てごらんよ!すごく幸せそうでしょ?

あんな風に、嬉しそうな笑顔を見せてもらえると、僕も四葉のクローバーを見つけられた時みたいな、小さな幸せみーっけ!て気分になれるんだ!


他にも、あの子とか。

あの子はかけっこが苦手でね。いっつもビリとか、ビリ前とかで、自分の足が遅いことにすごくコンプレックスを感じていたんだ。

でも今じゃ、あの子はこの世界で一流のトップランナーになることが出来たんだ。

毎日毎日新聞やらテレビやらあっちこっちにひっぱりだこ!

これぞ彼女のビフォー・アフター★


と、まぁこんな感じで、ここには毎日色んな人が色んな望みを叶えているわけですよ。

仏のようなありがたい願いを叶えようとする人もいれば、どこぞの時代劇の代官かのような極悪な願いを押し通そうとする人もいる。

自分のために神を仰ぐ人もいれば、誰かのために祈りを捧げる人もいる。

とにかく色々なんだ。星の数!

各々が、それぞれに望みを叶えるもんだから、ここには沢山の世界が広がっているのさ!

君には見えないかもしれないけど、君の足元にだって誰の願いだかはわかんない、螺旋階段がずーっと続いてるんだよ?


さぁさぁ、そんなにカチコチになってないで、君もなにか望んでごらんよ!


……とと、1つ言い忘れてた。

くれぐれも注意してほしいんだけど、ここはあくまで「夢」の世界だからね!

いやいやいや、また目が覚めたら現実の世界に、とかそういうのじゃなくてだね。

ここで起こっていることは全部君たちの「夢」であるから叶うのであって、重い荷物を引きずるみたいに、ずるずるずるずる、この「夢」を「現実」に持っていっちゃ駄目だよ!

要するに、この世界に執着するなってこと。「夢」は「夢」、「現実」は「現実」。

じゃないと、いつか自分自身を失うことになりかねない。本来の自分を忘れて、ありもしない架空の自分に魂を渡して一生元に戻れなくなっちゃう。

そうでなくても、「夢」が「現実」にのめり込んできてあっちこっちで反発起こしあって、最終的にネジが外れたロボットみたく壊れちゃう。

世界の崩壊。

嫌でしょ?そんなの。

だから気をつけて、ね!


「夢」と「現実」は永遠に交わることのない存在なんだから。

おーっと、そうこうしてるうちにまた誰かがきそうな予感。

出迎えに行かなくっちゃ!それじゃ!



「夢」の世界をごゆるりとご満喫ください。





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