光もそうだった。私の知らない間に、私の知らないトコロに行っちゃった。


みやびまで、私から離れて行っちゃうの?





優の躁鬱++side 斑咲





みやびがグレた。

朝一番の私の鞄攻撃を初めてマトモに喰らったと思ったら学校ばっくれて走り去っていった。


私の知ってるみやびは、頭が良くてイイ子チャンで、学校サボってどっかに行っちゃう子じゃなかったのに。

最近、みやびがおかしかった。


おかしかったっていえば。

みやびは最近ずっと眠りたいってぶつくさ呟いてた。

早寝遅起きを心掛けてるんだってさ。ほとんど寝てばっかじゃん。ねぇ?

それなのに、まるで寝不足みたいに顔色がどんどんと悪くなってくの。

模試ができないのも、勉強がダメなんじゃなくて、頭が回ってないんだよ、きっと。


きっと、何か悩みがあるんだ。私が頼りないから話してくれないだけで、みやびはなにかを背負い込んでる。

だから気晴らしに一緒に出掛けようって。そしたらみやびも元気になるって、そう思ったの。

私には何もできないけど、そのくらいならできるから。

そしたら案の上、みやびはなんかふっきれたみたいな感じで、一緒に笑ってくれた。

嬉しかった。すっごく嬉しかった。

こんな私とでも、みやびは笑ってくれたから。

だからもう大丈夫、またいつもみたいに笑えるって、そう思ったのに。

なのに、なんでこんな事になっちゃったんだろう。



みやびは今、病院のベッドの上で静かに眠ってる。

この病院に向かってる途中で、急に意識を失って倒れちゃって。

慌てて病院に込ん運びで、お医者さんに診てもらったんだけど、お医者さんはドコにも異常は見当たりませんって言ってた。

だけど、みやびは起きてこない。

みやびんトコのおばさんが来たけど、それでも起きなくて。おばさんが着替えを取りに帰ったけど、それでも起きなくて。

おばさんが置いていってくれたココアがすっかり冷めちゃったけど、それでも起きなかった。

そんな、これじゃあまるで……



光みたい。



光も、光もそうだった。

異常は見当たりませんって。でも起きない、ずっと。

人間が眠り続けるのは異常じゃないの?起きてこないのは異常じゃないの?

だけど、お医者さんには何もできないんだって、さ。

どうしてなんだろう。どうして私の大切な人は、みんな私から離れていっちゃうんだろう。

光も、みやびも、私にはどうにもできないトコロにいっちゃった。

私のせい?私がフガイないから?私が何もできないから?

私のせいなの?ねぇ、みやび、お願いだから何か言って……ッ!!


「…んっ……」


私の願いが通じたのか、みやびが身じろぎした。

突然の事にびっくりして慌てて立ち上がると、おばさんが置いていってくれたココアが少し零れた。

みやびは少し苦しそうに音を吐き出す。


「ゆ…さ……ん………」

「みやびっ!聞こえるのみやびっ!?」

「ゆめさき…くん……」


ユメサキ、クン?


いま、みやびは確かにそう言った、よね。

『夢前兄ちゃんがね……』

ふと、楽しそうに話してた光の声を思い出した。

夢前………?


『夢前兄ちゃん』の話をしてた光が起きてこなくて。

『ユメサキクン』って呟いたみやびが倒れて。


誰?ユメサキって誰?

『ユメサキ』が光とみやびが起きない原因なの?

『ユメサキ』が光だけじゃなくてみやびまでどっかに連れていっちゃったの?


光とみやびに、何があったの?


みやびはまた、ただただ眠りはじめた。

すぅっ…すぅっ…と小さな寝息が聞こえる以外、何も物音はしない。



カラカラ、と病室のドアが開いた。

おばさんが戻ってきたんだ。手には着替えの入った大きな紙袋を持っている。

そろそろ、私は帰ったほうがいいかな。

「有難う、優ちゃん」

おばさんの声に頭を下げて、私は病院を出た。

空を見上げると、寒色の混ざったオレンジ色が広がってた。



ねぇ、光?光と遊んでくれたっていう夢前兄ちゃんはどんな人?

ねぇ、みやび?みやびが言ってたユメサキクンはどんな人?



ふたりが私から離れていったのは、ユメサキってヤツのせい?





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